第184章

稲垣栄作は心に引っかかるものを抱えていた。

Hシティから戻ってから、彼と高橋遥の間は素っ気ないままだった。

子供に会いに行くときも、高橋遥はいつも避けるようにしていた。最初、稲垣栄作はそれに不快感を覚えていたが、やがて彼は考えるようになった。彼女の心の中で大切なのは伊藤さんであり、自分との関わりは子供を産むためだけのものなのだと。

感情とは、関係ないなのだ。

そう考えれば考えるほど、彼は高橋遥との距離を置くようになった。彼らの間には子供以外に何も残っていないように思えた……

週末。

稲垣グループのビルから、窓越しに見下ろすと、紅葉が火のように燃えていた。

また秋がやってきた。

...

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